「教える」ことは教師の基本ではありますが、これからの時代は「教える」ことだけが教師の役割ではないですよ!
かつては学校に知識と情報が集まり、教師の役割は生徒に効率よく知識を伝達することでした。
しかし、現在の情報社会では、誰もが良質な情報にアクセスすることができます。
教科学習の内容をはじめ、進学・就職情報についても教員が教えるだけではなく、生徒自らが学びを創るためのサポートも重要です。
また、キャリア教育や総合的な学習の時間など、生徒が自身の生き方や在り方を見つける機会を提供したり、社会とのつながりを学校がつくることも求められています。
このように、これからの時代に必要な教育を実現するためには、従来のような一斉授業に頼った知識の伝達や一方的な生徒指導・進路指導では通用しません。
教師は教えるだけでなく、それぞれの教育場面に応じた役割を担っていく必要があるのです。
今回は、これからの時代に求められる教師の役割について5つ紹介をしていきます。
教育のプロだからこそ、場面に応じた使い分けができるようにしていきましょう!
高校の数学教員として10年以上教職に携わる。
内容を教えるのではなく、学び方を教えるをモットーに授業を展開。
担任や探究学習の企画・運営担当を通して、生徒との関わり方を模索し続けている。
目次
これまでの教師の役割は?
かつての教師像といえば「教師が生徒に教える」という形が一般的でしたよね。
そうですね。
でもこれからの時代、それだけでは難しいかもしれませんね。
従来の教師と生徒の関係と言えば
など、教師はある意味一歩通行で生徒を教え導く存在という時代が続いてきました。
しかし、現代は
など、これまでの一方的な指導だけでは通用しない時代となりました。
これまでのような知識の伝達のみを役割とする教師像は通用しません。
もちろん、これまでも生徒に寄り添い成長を促そうとする先生方もいらっしゃいました。
これからは、すべての教員が時代に応じた生徒との関わりを考えていく必要があるのです。
これからの時代に求められる教師像について紹介していきますね!
これから必要な教師の役割5選
これからの時代に必要とされる教師の役割は、テーチャー・コーチ・メンター・ファシリテーター・ジェネレーターの5つです。
5つの役割を簡単に図にしておきます。
それでは一つずつ見ていきましょう。
ティーチャー
まずは、これまでの一般的な役割であるティーチャーです。
ティーチャーの役割は、集団や個人に学習内容や指示を分かりやすく伝えることです。
「主体的・対話的で深い学び」が推奨されている現在ですが、講義型の授業が全否定されているわけではありません。
文科省も「アクティブラーニング=グループ学習」の認識となってしまったことから、新たに「主体的・対話的で深い学び」という文言を使用するようになった背景があります。
大切なことは、生徒の資質・能力の育成ができているか。
一定量の一斉授業や講義型の授業も必要がないわけではないのです。
分かりやすく授業ができる土台を教師が持っているからこそ、生徒の主体的な活動を見守ることもできます。
生徒主体の活動を重視した授業を行う際に、仮にねらいから大きくずれてしまったとしても、いざとなれば教師が軌道修正をすることができる。
この土台がなければ、ただの自習・放任の授業となってしまいます。
やはり教師として生徒全体にわかりやすく授業をするスキルは必要ですし、個別で質問等を持ちかけられた時にはわかりやすい説明ができるスキルは必要です。
また、緊急時の指示などでは、生徒の安全確保のために全体を動かすスキルは教師にとって必要不可欠です。
集団としての行動を促すためには、教師が規律を確保して指示を出す場面もあります。
その場で40人学級や何百人もの生徒を動かすことができるのは、教職ならではのスキルであると思います。
テーチャーの役割は、授業スキルの土台、緊急時の指示など、一斉に情報を伝達する上で、これからも必要な側面があるのですね。
コーチ
続いてはコーチとしての役割です。
コーチの役割は、生徒の強みを引き出し成長の手助けをすることです。
イメージしやすい場面としては、部活動や課外活動、個人面談など個々の生徒とのやり取りで発揮される教師像です。
進路指導を例にとってみましょう。
国公立大学への進学を考えている生徒に
- 5教科を満遍なく学習しよう
- 得意を伸ばして苦手をなくそう
というような指導をすることはよくありますよね。
しかし、このような抽象的なアドバイスだけでは生徒は学習に向かうことはできません。
生徒が学習のどこでつまずき、何を課題として考えているのか。
そこを生徒との対話を通して見出していく必要があります。
対話を通して生徒の特性を見い出し、学習成果を上げるための手立てを共に考えていく。
また、教員が一方的に進路先を進めるのではなく、生徒の得意や性格などを考慮するとともに進路・キャリア意識を把握した上で大学や就職先を提案する。
そのよう役割も教師の仕事であると考えます。
生徒の目標に寄り添いながら対話し、適切な方法を共に考え探る力が大切ですね。
メンター
3つ目は、メンターとしての役割です。
職場の先輩などでは耳にしますが、生徒に対してもメンターの発想が必要なのですか?
メンターの役割を持つ教師は、個々の生徒に寄り添い適切な方向づけをします。
メンターとは相談者や指導者という意味です。
中学・高校生は人間関係や学習への不安を抱えていることも多いです。
そのような生徒に対して、気持ちを理解しながら一歩踏み出す勇気を与えてあげることも教師の役割です。
ただ教師はカウンセラーではありません。
話を聞いて生徒の気持ちが整理されるカウンセリングマインドを持ちつつも、一定の方向づけを差し伸べてあげることも教育者としての役割です。
一方で積極的に挑戦を続け、新しい可能性を追いかけ続けている生徒もいます。
そのような生徒には、大人の視点ならではのアドバイスにより、生徒の可能性をさらに伸ばしてあげることも必要です。
何か悩みが生じたときや先に進もうとしているときに、「やってみよう」と思える。
そのようなアドバイスを行うのがメンターの役割です。
これまで何百何千の生徒を見てきた経験があるからこそ、ちょっと先の世界を見通せるからこそできるアドバイスもあります。
ただし注意が必要なのは、自分の考えを生徒に押し付けないことです。
あくまで舵を切るのは生徒自身です。
- こういうことをして上手くいった先輩がいるよ
- 別のやり方で学習に取り組んだ先輩もいるよ
といった、あくまでアドバイスであり、強制するものではありません。
生徒が素直に試してみようと思えるような人間関係づくりと対話が必要です。
ただ話を聞いてもらいたいだけなのか。
それともアドバイスが欲しいのか。
見分ける力も教師の大事な資質・能力ですね。
ファシリテーター
続いて、近年重視されている教師の役割であるファシリテーターについて紹介します。
ファシリテーターは、生徒の協働学習を深めるための場づくりを行う立場です。
授業ではもちろん、ホームルーム活動でも発揮される役割です。
これからの学校教育では、これまでのような教師が生徒に知識を一方的に伝える指導だけでは通用しません。
教員が生徒の主体的な学び促し、成長に繋げるための場作り上げることが大切です。
そのためにはファシリテーターとして以下のポイントを押さえておくとよいでしょう。
細かく見てみましょう!
授業をデザインする
学習内容を教え込むのではなく、生徒が学びを創るためのアプローチを考えることです。
- 思考を深める良質な問いを準備する
- 主体的に学べる学習内容は何か
- どこで協働学習を入れるか
- 自身の考えを深める時間をいつ設けるか
このような生徒の学びを最大化させるための準備を念入りに行うことが大切です。
教師はあくまで学びを促す進行役。
生徒の学びを促進させるためのアプローチを考えることに徹するのです。
ファシリテーターを意識する先生方は、「指導案」ではなく「授業デザイン」や「学習案」などと呼ぶ方もいますね。
学習環境を整える
事前準備としては、1時間の授業だけでなく毎時間の学習環境も意識する必要があります。
教室などの空間としての学習環境を整えたり、学びを深めるために活用できるツールを探したりなどが挙げられます。
- 問題解決のための資料を準備する。
- 疑問点を解決できるサイト紹介しておく。
- ICTを活用して学びを可視化したり振り返れるようにする。
- 発表のための機材を準備しておく。
- 協働学習を促すための机の配置やルールを用意しておく。
全員が黒板に向かって教師の話を聞いているだけでは、対話は生まれません。
疑問を解決したいときに、その手立てがなければ学習は進みません。
生徒の学びの発展を予想し、下準備をしておくことが大切なのです。
学び方の土台が学習効果に大きな影響を与えますよ。
人間関係づくりと安心・安全な場を実現させる
生徒同士で学びを創るためには、良質な人間関係と安心・安全な場づくりが必要です。
これは「みんな仲良く」ではなく、共に学びを創る集団として、互いに発言の機会を認め合う環境です。
- 誰もが安心して発言ができる。
- 他の発言を馬鹿にしたり、発言者が恥ずかしいと思わない。
そのような雰囲気づくりを日頃から進めることが大事です。
▼安心・安全な場については、こちらの記事も参考にどうぞ。
協働的な学びを促す
ファシリテーターの役割は、学び深めるための進行役です。
新たな気づきを得たり、自身の考えを言語化し整理したりするには、生徒同士の協働的な学びが必須です。
協働的な学びを促すために
など、学びの創り方を事前にしっかり確認・説明しておくことがポイントです。
ちょっとした技術が協働的な学びを促進させてくれそうです!
振り返りとフィードバックをする
ファシリテーターは、自身が一斉授業を行い続けることはしません。
その代わりに、生徒が自身の学びを振り返る時間をデザインします。
- 教師が授業を通して生徒の学びをフィードバックする。
- 自身でメタ的に振り返れるような対話の機会やルーブリックを提供する。
などが考えられます。
ファシリテーターは、生徒の学びの支援者ですね!
ジェネレーター
最後は、ジェネレーターとしての役割です。
「ジェネレーター」ってなんですか?
ジェネレーター役割を持つ教師は、生徒と一緒に問いに向かい課題解決に参画します。
ファシリテーターは一般的になってきましたが、ジェネレーターという言葉を初めて聞く方もいるかもしれません。
「ジェネレーター」は、自ら面白がりながら創造・探究を進め、周囲も巻き込んで刺激・誘発しながら、みんなで成し遂げてしまう人のこと。
引用:「ジェネレーター」としての教師、親、リーダー 井庭 崇の Inspiration Note
イメージとしては、以下の図のような関わり方です。
ファシリテーターは学習者の輪の外から学びを促すのに対して、ジェネレーターは生徒と同じ輪の中で学びを共に創ります。
同じ立場ですから、教師の発言に対し生徒は賛同してもよいし、賛同しなくてもよいのです。
あくまで同じ問いに向かう共同体の一人で、教師・大人としての人生経験から一つのアイディアとして対話に参加をしていきます。
これらは探究活動や生徒参画の学校経営などで活きる役割です。
- 答えのない問いに向う
- ときにヒントを出す
- 共に悩む
そうした中で、学びが生成されていく、すなわちジェネレイトしていくのです。
「答えのない問いを一緒に探究する」
これまでの教員像の更新が必要ですね。
「教える」「教えられる」の発想からから踏み出すことがポイントです!
まとめ:5つの役割を使い分け、よりよい教育を実現させよう!
今回の記事では、これからの時代に必要な教師の役割として、5つの例を紹介してきました。
これらは、どれかが一番大事というわけでなく、場面によって使い分けることが求められます。
例えば、数学を教えるだけであれば、学校の教員でなくてもできます。
学生アルバイトでもよいですし、勉強が得意だった大人であれば誰でも教えることができます。
教師が教師であるのは、目の前の生徒に応じて、また教育のねらいに応じて関わり方を変えることができるからです。
それこそが教育の世界に身を置くプロであると考えています。
生徒の成長や自律の段階に応じて、適宜教育のアプローチを変えることができる。
そのような教師が、これからの学校教育には必要なのではないでしょうか。
ぜひ、それぞれの役割について学びを深め、生徒の成長を楽しみましょう!
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教員の仕事って授業だけでなく、進路指導や教育相談など様々ですよね。
自分が高校生の頃とは、社会も変化しているし「教える」ことに少し不安があります。