「人を変えることはできない」その前提を持ちつつも、ちょっとでも興味を持ってもらう、手を伸ばしてもらう工夫をしてみましょう!
変化の激しい現代において、教育現場でも新しい教育活動の実施や時代に応じた教育観が求められています。
各学校には、それらの変化を敏感にキャッチして実践をしている先生方も多いでしょう。
一方で、なかなか変化を受け入れられず、従来の教育から抜け出せない学校も珍しくありません。
学校内で一人だけ前向きに実践を行っていても、生徒の資質・能力の育成には限界が訪れます。
職員全体が変化を楽しみ、新しいことに挑戦していくことが大切なのです。
そこで今回の記事では、変化を嫌う人の特徴を分析しながら、私自身が行ってきた変化に向けた実践例を紹介していきます。
新しい教育活動を浸透させていく足がかりにしていただければ幸いです。
高校の数学教員として10年以上教職に携わる。
内容を教えるのではなく、学び方を教えるをモットーに授業を展開。
生徒の成長につながる教育活動のために、業務の見直しや一律の宿題の廃止、生徒主体の授業改善などを進めている。
目次
なぜ人は変化を嫌うのか?
変化が求められるが変われない学校
現在の社会では、技術発展が著しく社会課題もさまざまです。
このような変化の激しい社会では、これまでとは異なる資質・能力を身につけていかなければなりません。
そのため、従来型の学校における教育観では不十分であることが叫ばれています。
しかし、学校現場は前年踏襲であることが多く、職員会議などでは「例年通り」のキーワードが飛び交います。
その結果、学校内の価値観が世間からタイムスリップしている現状も見られるでしょう。
なかには、時代に合わせて全国の事例を学び実践したり、生徒の学び方や学校が提供する教育活動を変化させようと試みたりしている先生方もいます。
ただ、そのような先生方は孤軍奮闘しているのが大半で、なかなか学校全体に浸透しないことも耳にします。
その理由は、基本的に人は変化を嫌うからです。
教育の再生産、現状維持バイアスと言われるように、自分が受けてきた教育や実施してきた教育を続けることは安心です。
ですから、わざわざ危険な未知の世界に行きたくないのです。
特に学校現場は、教科で教える内容や学校行事が大きく変わることはありません。
指導法や運営方法を変えた方がよいとしても、何も変えずに1年が無事終わってしまうのです。
たしかに、自分が過ごしてきた時代とほとんど変わっていませんね…。
なぜ変化を嫌うのか
では、変化を嫌う人たちは、なぜ効果的なアイデアを受け入れてくれないのでしょうか。
書籍『「変化を嫌う人」を動かす』では、その理由を以下のようにまとめています。
変化を嫌う人の「4つの抵抗」
引用:「変化を嫌う人」を動かす
書籍では、「変化を嫌う原因=抵抗」と表現しています。
そして、燃料を与えるのではなく、抵抗を排除することが大切だととも述べられています。
例えば、すごくやる気があるのに、先生方から反発の多い管理職はいませんか?
校長は全国校長会への参加や外部とつながる機会も多く、さまざまな実践例を見たりビジョンを持ったりしながら学校経営に当たっています。
一方で現場の教員は、日々の業務で精一杯です。
そのような状況のなかで
「これを取り入れよう」
「この実践がすごくいいんだよ」
など燃料をどんどん注がれても先生方は動きません。
むしろ職員室で管理職への批判大会が始まってしまうのです。
こうして生徒の成長につながるアイデアは実現されず、なんとか実現させようとしている一部の先生方の個人的な実践で終わってしまうことも少なくないのです。
燃料を注ぐのではなく、まずは先生方の抵抗を減らすことが大切なのですね!
新しい教育活動を普及させた具体事例5選
管理職が学校運営を行なっていくのは当然のこととして、私達教員一人ひとりが実践できる学校運営もあります。
- 分掌として担当している仕事
- 新しいプロジェクト
- 時代にあった授業方法
など、みなさんが学び実践していること、効果が期待できるものがあれば、ぜひ広げていきたいものです。
ここからは、私自身が実際に行なった業務の中で取り組んだものを紹介します。
など、これらを進めてる上ではもちろん反発もありました。
しかし、生徒の成長を考えれば、なんとか実現させたい活動でした。
これまでの実践をどのように行なったのか、先述した4つの抵抗に関連させながら改めて振り返り紹介していきます。
振り返りシートの導入
毎日の授業は、一斉授業で例題を解説・演習でおしまい。
かつて所属していた現場では、そのような現状がありました。
そのため、生徒の理解を深め、自己調整学習を促すための振り返りシートを提案しました。
もちろん反発(抵抗)はあります。
そこで以下のようにお願いしてみました。
まず導入をお願いをするわけなので、「めんどくさい」という労力をなくすことが第一です。
また、「意味があるの?」の疑問に対して、自身の実践例を作っておいたり、学術的な根拠を持っておいたりすることも有効です。
さらに、「これまで先生方が行ってきたことと実は変わらない」という、馴染みのあるものに関連づけることも取り組みやすさにつながります。
その結果、初めは「大変じゃない?」と言っていた先生が、「これいいね!」と言ってくれるまでになりました。
これまで観察による形成的評価を進めてきた力のある先生だからこそ、言語化された文章を見て振り返りシートのよさに気づいてくれました。
自身の経験のなかに新しい取り組みが根付くと、たちまち肯定派になってくれるのです。
▼形成的評価や振り返りについては、こちらの記事もどうぞ!
宿題の廃止
こちらも抵抗がすごく大きい取り組みでした。
先生方は基本的には指導に熱心です。
また、持ち上げる学年の進路実績に対する不安も抱えています。
そのような感情から、宿題をとにかく出さないといけない先入観があったのです。
一方で、答えを移してきただけのノートに機械的にハンコでチェックをすることへの無意味さ、業務の非効率さを感じている部分もありました。
そこで、以下のような方法で進めました。
意味のない宿題であると感じながらも一歩がでない。
そして宿題を出さないという不安を解消する。
そのために、生徒のノートチェックに新たな役割をもたせました。
こちらが指定した問題を解いたかどうかではなく、生徒が自身で計画した学習をしっかり行い、振り返りが行えているか。
生徒の学習への取り組み自体にフィードバックをするようにしたのです。
また、宿題を全くなくすのではなく、数学の得意不得や目指したい進学先に応じて、複数の取り組み方の例を提示しました。
これらにより、宿題をなくすという感情的な側面や新しいことに取り組むハードルを下げたのです。
一律の宿題を学年で廃止してから、生徒は与えられたものを処理するのではなく、自分で考えて学習を進められるようになりました。
その結果、数学が嫌いにならず、2次試験まで粘り強く取り組む姿勢が見られるようになったのです。
▼一律の宿題を廃止した私自身の考えについては、こちらの記事でも紹介しています。
生徒主体の授業展開
授業改善については、ともに改善点を考えることが重要ポイントです。
教師が一方的に説明を行い、生徒は話を黙って聞く。
そして一人で練習問題を解き、解説を教師が行う。
高校現場には、まだまだ多い授業風景です。
講義形式の授業も効果的な場面はありますが、これからは「他者に説明をする」「論理的に表現する力」が大切であることから、学年の先生方と新しい授業スタイルについて検討をしました。
そのとき、私自身の実践をもとに抵抗感がないよう進めていきました。
数学の問題を生徒に発表させる場合、板書するために大幅な時間が奪われます。
そこで画質のよいタブレットで生徒のノートを撮り投影することで、よく見える解答記述となります。
このような工夫を提案することで、労力や感情面を克服できました。
また、先生方にグループ学習の進め方や演習問題の進め方など、教員の一方的な説明以外の方法を一緒に考えてもらいました。
そうすることで、自身の妥協点が見えてきますし、押し付けの授業スタイルではないので、心理的反発なく取り入れられました。
授業改善の結果、居眠りをする生徒は激減しました。
誰かのために学ぶというモチベーションが、自身の学びに還元されていったのです。
また、クラス替えをして教科担当が変わったとしても、似たような授業スタイルですから生徒の負担も減りました。
▼他者との協働的な学びの視点については、こちらの記事も参考にどうぞ!
探究活動・キャリア教育の推進
探究学習・キャリア教育の推進は、抵抗が大きいですよね。
教科指導がメインである高校。
特に進学校においては、キャリア教育や探究活動の必要性が受け入れられにくいです。
授業時数を減らす悪者扱いの学校もまだまだ多いでしょう。
今でこそ少しずつ浸透してきましたが、探究活動が始まった当初は反発の連続でした。
もちろん今でも、各学校で担当の先生が孤軍奮闘されているケースが多々あります。
私自身、探究学習に切り替わった年に、複数の先生方とプロジェクトを組んで探究活動の推進とキャリア教育の見直しを行なってきました。
探究学習やキャリア教育の推進では、以下のようなことに取り組んできました。
探究はよく分からないという感情や自分が受けてきていない教育を実施する労力はかなり大きいものです。
そこで、誰でも授業ができるようにチームでスライドや指導案などを作成することで抵抗を削減しました。
また手探り状態であり、探究やキャリア教育の意義を言語化することも難しかったため、外部のコーディネーターを入れることで、授業の目的や意義を明確にしていきました。
コーディネーターには、ファシリテーターとして会議にも参加してもらうことで、ベテランの先生ならではの視点を盛り込み、心理的反発を減らすことも行いました。
ミドル世代が推進をし、ベテランがよい意味での監査役になることで、外部連携などもトラブルなくスムーズに行うことができたのです。
探究活動・キャリア教育において「生徒が変われば教員も変わる」は、一つのキーワードです。
探究活動やキャリア教育では生徒は学校の外へ出て、どんどん学びを得ます。
その教育活動の振り返りアンケートを集計することで、生徒の学びを可視化するのです。
教科の授業だけでは絶対に出てこない生徒の学びの声がたくさん載せられています。
それらを共有することで抵抗が減っていきます。
何より生徒の学校生活の行動が変わります。
主体的に行動をするようになり、学校行事や授業にも取り組む目が変わるのです。
生徒が変わると、教員も「そっちのほうがいいのかなぁ」と変われそうですね!
進学実績を作ることも、効果は大きいです。
進学実績は一番効果が高いものでした。
これには少なくとも3年はかかるのですが、「探究は意味がない」を払拭するためには、実績を作ることが最も手っ取り早いのです。
探究活動を推進することで、学習への主体的な取り組みが良くなり、その結果進学実績が上がりました。
これは全国ですでにたくさんの事例が出ています。
そこを信じて行なってきた結果、ありがたくも実績が出ました。
進学校の場合は進学実績、実業高校であれば進学・就職・資格実績が出れば、もはや抵抗はありません。
結果が出てしまえば、変化を嫌う惰性を続けるわけにはいかないのです。
ITスキルを広げる
最後はIT活用の推進です。
デジタル採点やExcel、生成AIなどの活用は、業務効率を図るためには必須のスキルです。
これらは、自分の働き方改革につながるものの、他者にまで普及させる必要があるのか疑問があるかもしれません。
ただ、先生方の業務改善が行われ時間にゆとりが生まれると、生徒の成長につながる教育活動をじっくり考える時間が取れます。
その結果、新しいことにチャレンジする余裕も出てくるため、そのほかの教育活動の推進にも影響が出てくるのです。
また、生徒にとってもITスキルを身につけることは、これからの時代必須です。
そのため、教員がITスキルに抵抗・批判を続けるのはあまりよくないでしょう。
ITスキルでの抵抗減少に向けた取り組みは、以下のとおりです。
ITスキルは、学べば爆発的な効果がある反面、使えるようになるまでに苦労をします。
特に教員生活が残りわずかであるほど、その費用対効果は薄まります。
もちろんベテランの先生に限らず、コンピュータが苦手な人も最初の労力に耐えられずスキルを磨くことができない人もいます。
そのため、ITスキル分野は変化を嫌う人も多いのです。
そこで労力を取り除くために、マニュアルを用意したり、デモ会を開催したりしました。
惰性の視点で考えると、マニュアルを見ることすらハードルがあります。
そこで、実際の画面を用意し見てもらうことで、やり方を理解してもらい、より労力を最小限にすることができるのです。
また、そのデモ会にも参加してもらうために、生産性や便利さの紹介を朝会用の掲示板に載せるなどして、惰性の抵抗を減らしてあげます。
もう一つ、意外と効果的なのが、仲間を増やすことです。
これは時間がかかりますが、かなり効果的です。
- Googleの学習ツール
- 生成AI
- 自動採点
などのアプリケーションについては、興味のありそうな人から普及を進めてきました。
使用する人が増えると、自分も流れに乗ってやってみたくなるものです。
そのような感情の面を利用して、じわじわと学校全体に普及させていくのも一つの手です。
▼生成AIの活用については、こちらの記事でも紹介しています。
まとめ:自身の変化の次は、職員室の抵抗をなくそう!
今回は、変化を嫌う人を動かし、新しい教育活動を普及させる方法について、私自身が取り組んできた具体事例5選を紹介してきました。
変化の激しい現代。
学校教育にも変化が求められています。
新しい授業形態、教育活動、ICTスキルなど教員も変化に柔軟に対応する必要があります。
そのような学校現場において、管理職からの要求に嫌気が差している現場も多いかもしれません。
しかし、変化に振り回されていると感じるか。
それとも面白いと思い、やってみようと感じるか。
この違いが、教職を楽しむためのコツです。
この記事を読んでくださっている方は、すでに変化を楽しんでいると思います。
ただ一人で孤軍奮闘していては、疲労も溜まりますよね。
さらに抵抗勢力が多すぎると、生徒の成長につながる教育活動も実現しません。
そこで変化を職員室全体に広げていきましょう。
その際、変化を推進するコアメンバーは数人でよいのです。
しかし、少しでも多くの理解者・仲間を増やすために、抵抗を減らして変化を楽しんでもらうことも大切です。
職員室の過半数が変化を楽しめれば、生徒はみるみる成長していきます。
そして表情も明るくなります。
何より生徒の成長につながる教育活動を実践していく、教員としての本来の面白さをさらに体感できるでしょう。
今回の記事が、職員室をよりよい方向へ導くためのきっかけとなれば嬉しいです。
▼今回の記事に興味を持ってくださった方は、こちらに記事もどうぞ!
新しいプロジェクトをお願いされて動いているのですが、なかなか浸透しなくて悩んでいます。