『教師の役割はこれ!』と決めることはできませんが、ある視点をもとに考えることはできますね。
知識の伝達がAIに代替されつつある現在、教師の役割が変わってきています。
教師は生徒にどのような支援をすることが出来るのか。
その見方・考え方はさまざまです。
今回は、認知バイアスとして有名なダニング=クルーガー効果を切り口に、教師の役割について考えたいと思います。
書籍や論文を読んだり人と交流したりする中で、ちょっとしたことをきっかけに教育について考える時間は教師にとって大切です。
今回は、そのような私自身のちょっとした教育論についてお話をします。
面白半分で教育活動へのヒントにしてもらえると嬉しいです。
高校の数学教員として10年以上授業を行っています。
内容を教えるのではなく、学び方を教えるをモットーに授業を展開。
教職大学院にて研修を行い、「理論と実践の往還」を意識して教育活動に励んでいます。
目次
ダニング=クルーガー効果とは?
ダニング=クルーガー効果って聞いたことはありますが、どのようなものでしたっけ?
ダニング=クルーガー効果とは、以下のような認知バイアスのことです。
知識のない人ほど、自分には能力があると過大評価してしまう効果のこと。一方で、知識が豊富だったり能力が高かったりする人は周囲も自分と同じだけのものを持っていると考え、自分を過小評価してしまう。
引用:情報を正しく選択するための認知バイアス辞典 p250
これは、1999年にダニングとクルーガーが発表した論文が元になっています。
論文の内容としては、
という内容です。
このような内容から、「能力の低い人は自分を過大評価する」「能力の高い人は周りも同じようにできると考え、自己評価を低くする」ということになるわけです。
また、「ダニング=クルーガー効果」と検索すると、論文から派生した下のような図がたくさん出てきます。
「能力が低いうちは自信に溢れていて、能力が上がってくると自分を過小評価し、その後本来の能力に見合う自信を得ていく。」
というような見方ができますね。
例えば感覚的な例で言うと、
このような経験は、多くの人が当てはまるのではないかと思います。
ただし、論文には上のような図は記載されておらず、懐疑的な見方も多く存在します。
海外のブログ等でも紹介されていることから、日本以外でも有名な図のようです。
学術的に全てを鵜呑みにすることには注意が必要です。
今回の記事は、ダニング=クルーガー効果の信憑性の話ではなく、日常で目にしたものから実践に活かすヒントを考えるという前提です。
教師は日頃から教育活動のネタを探し続ける必要があります。
先ほどの図を初めて見たとき、教師の在り方を考えるきっかけになったのです。
以下、図のような場面から私なりに考える「教師の役割」について紹介していきます。
面白半分で参考にしてもらえると嬉しいです。
教育場面において、ダニング=クルーガー効果を考えてみる
もう一度先ほどの図を見てみます。
日本語の直訳も添えておきます。
先ほどのような例をもう少し教育現場に当てはめて考えてみましょう。
初めて学習する単元で、思ったより簡単に解くことができて楽しい。
そのため、「自分は結構センスがいいのでは?」と考える。
しかし、少し進むと難しい問題にぶつかり、全くわからなくなる。
でも継続して頑張っているうちに少しずつ本当の面白さがわかってくる。
また、次のような場合もよく見かけます。
中学校のときは成績が良く、学年でトップのグループにいた。
高校は地域で一番手の進学校に進んだが、周りには自分よりもっとできる人たちがいて自信をなくしてしまう。
しかし、そこから周りよりも学習に励み、大学進学に向けて学力を確実につけた。
このように何か物事に取り組むとき、一度自信が頂点に上がり、そのあと挫折を経験し、再び立ち上がる。
そのような生徒を何人も見てきました。
一方、そもそも頂点に上がった経験をしたことがなかったり、挫折で終わってしまったりする生徒もいます。
特に挫折から再び立ち上がることは、一人ではなかなか難しいものです。
ですから教師や友人、保護者など周囲からのサポートが必要なのです。
個々の生徒や活動場面によって、立っている位置は異なります。
生徒の実態を把握し、3つの位置ごとに教師が行える支援があるのです。
教師の3つの役割
3つの役割について詳しく見ていきましょう。
心に火をつける支援
まずは「馬鹿の山」に登らせることです。
これは言い換えれば「その気にさせてあげる」こと。
例えば、数学に苦手意識を感じている生徒がいます。
「自分は絶対に数学ができない」と思い込んでいるのです。
そのようなとき、
- 分かりやすく説明をしたり、協働学習を行なっりして理解を助けてあげる
- 類題を繰り返し解かせることで問題が解けるようにする
- 課題の難易度を下げる
などの手立てを行うことで、「意外とできるかも」と思えるような工夫をするのです。
そうすることで苦手意識が和らぎ、「もう少しやってみてもいいかな」と思ってもらえるようにするのです。
もう一つ大学入試に関連した例も挙げてみます。
難関大学と言われる大学の問題でも、基本的な内容が身についていれば解ける問題があります。
その問題を単元末に解かせてみると、
「自分は〇〇大の問題も解ける!?」
なんてちょっとしたモチベーションになります。
結果より高いレベルを目指して学習に取り組んでくれる生徒も出てきます。
このような支援が「馬鹿の山」に登らせてあげるということです。
言葉が悪いので、『心に火をつける支援』としておきます。
もちろん、これだけでは学力はつきませんし、実際に大学にも受からないでしょう。
ここでは「高望みをしない」「気力がない」という生徒に、ちょっとした刺激やきっかけを与えるための支援です。
新しい世界を見せてあげる支援
2つ目は、絶望の谷に落としてあげることです。
これは「少し高いハードルを設置してあげる」こと。
誰しも現状維持は居心地がいいものです。
厳しい世界を知らなくて済むなら、それに越したことはありません。
しかし、それでは成長はありません。
「自分は、この学校でまぁまぁの学力ポジションにいる」
「それならば、それなりの大学には行けるし就職だってできるだろう」
このような場合には、少しハードルの高い課題を与えてあげることも教員の役目です。
「絶望の谷に落とす」の表現は厳しすぎるので、『新しい世界を見せてあげる』としましょう。
先ほどの受験の例で言えば、
安易に難易度の高い大学を志望していて、そこに向かう学習が伴っていない生徒がいるとします。
既習事項で解答ができる過去問題を扱ってみると全く解けない、ということはよくあります。
1,2年生に3年生が受験した共通テストを解かせるのも同じ原理です。
ちょっとした壁を提供することで、より学習に向かうための動機づけになるかもしれません。
教科に限らず、探究活動でも新しい世界を見せてあげることができます。
探究学習では、外の世界と繋がることが必須です。
学校の中だけでは、インターネットを中心にいくつか書籍を読んでまとめて終わり。
いわゆる調べ学習になりがちです。
ですから探究活動を深めていくためには、社会との関わりが必要不可欠です。
学習指導要領や文科省の文言を見ても社会とのつながりが指摘されています。
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地域や社会の人,もの,ことに 関わる探究の過程において, 課題の解決に必要な知識及び 技能を身に付けるとともに, 地域や社会の特徴やよさに気 付き,それらが人々の関わり や協働によって支えられてい ることに気付く。 | 地域や社会の人,もの,こと と自分自身との関わりから 問いを見いだし,その解決に 向けて仮説を立てたり,調査 して得た情報を基に分析し たりする力を身に付けると ともに,論理的にまとめ・表 現する力を身に付ける。 | 地域や社会の人,もの,こと についての探究活動に主体 的・協働的に取り組むととも に,互いのよさを生かしなが ら,持続可能な社会を実現す るために行動し,社会に貢献 しようとする態度を育てる。 |
外の世界に出ると想像を超える大きな発見があります。
大学に調査に行ったり、最全線で社会課題を解決しようとしている企業人や地域の人たちと接することで、自分が当たり前に思っていたことが覆されることもあります。
そして、調査のためのアポイントメント一つにしても、自分の想いをうまく伝えられないことに気づくかもしれません。
また、他校の生徒と交流ができるような外部発表の機会に参加すれば、全国レベルの高校生を知ることもできます。
このような生徒にとって緊張する場面、ハードルを作ってあげることで
『もっとすごい世界がある』
ことに気づくのです。
それを知る機会を与えてあげることも教員の役目ではないでしょうか。
自律した学びへの支援
最後は、「啓蒙の坂」を登るための支援をしてあげることです。
これは、「絶望の谷」から再び自分で山を登る力をつけてあげること。
この段階の支援が一番重要です。
確かに「馬鹿の山」に登らせてお終い、「絶望の谷」に落としてお終いでは、ちょっと無責任ですね。
大人だって自分よりもすごい人を見ると、
「自分にはできない」「あの人は特別」
と諦めてしまうことがあります。
課題に直面したとき、自らの力で何とか解決しようとする力は大切なスキルです。
このような自律性を養うための適切なサポートこそが教師の役割なのです。
例えば
「今まで大学進学は考えていなかったけど、新しい世界に触れたことで大学で研究をしてみたいと思うようになった。」
という生徒がいれば、そのために学習計画をどのように立てるのかを個別に支援してあげる。
「全国レベルで仲間を集めて活動している高校生がいる、自分にはそんなことできない。」
と考えてしまっている生徒には、地元に貢献できる活動を考え一緒に探究してみる。
このように生徒が自身で見つけた課題を解消するためのサポートをしてあげるのです。
この段階が一番難しい支援です。
個々の生徒に応じて個別に支援をしていく必要がありますし、対話のための時間も必要です。
でもここを乗り越えれば、図でいう「継続の大地」に達し、自分の足でしっかり歩んでくれるようになるのです。
教師として一番やりがいを感じる部分かもしれないですね。
まとめ:生徒の実態に応じて支援を変えよう
今回はダニング=クルーガー効果でよく目にする図をもとに教師の役割を考えてみました。
この図自体は、学術的にすべてを信頼してよいものではありませんが、教員の役割を考えるきっかけになります。
さまざまな経験や日常からちょっとした閃きを得ることは、教師にとって大切な時間です。
図のように、物事に取り組み始めると波が訪れます。
一度自信が頂点に上がり、そのあと挫折を経験する。
でも苦しい段階を粘り強く取り組むことで、継続的に行うことができるようになる。
これらの段階は、それぞれ必要な道です。
ただ一人では道の途中で行き詰まることもあります。
そのため教師が必要な時に適切に支援をする必要があるのです。
支援の場面は以下の3つです。
教育的な言葉に言い換えると
このような支援を行うことで、生徒が行き詰まっている場所から一歩踏み出すことができます。
そして大切なことは、生徒の実態の応じて支援すること。
心に火がついていない生徒にハードルを与えても、学ぶ意欲は湧きません。
外の世界を知らない状態では、今以上に自分を高めようとはしません。
生徒一人ひとりに応じた適切な支援を考えることが、AI時代の教師の役割なのだと思います。
今目の前の生徒にどのような支援が必要か、それらを考えながら教育活動をすることが大切ですね。
今回はダニング=クルーガー効果をきっかけに、私の考えを紹介してみました。
他にも様々な場面で教育活動のヒントを得る機会があると思います。
今回の記事が、そのような思いつきのヒントになれば幸いです。
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