教育活動における評価は、大きく3つに分けて考えられることがあります。
- 診断的評価
- 形成的評価
- 総括的評価
の3つです。
これは、アメリカの教育心理学者であるブルーム(1913-1999)によって分類されたものです。
3つの評価を意識することで目的と手段をはっきりさせられますよ。
目的と手段を混在させないことが、生徒の学力向上につながります!
令和4年度から、高等学校では観点別評価が導入されます。
これからの教育は、「指導と評価の一体化」がキーワードとして挙げられています。
「指導と評価の一体化」を実現するためには、上記の3類型について理解することが大切です。
今回は、これらの評価の土台について解説していきます。
- 教員として働き始めたばかりの若手の先生
- 教職を目指す学生の方
- これまで「評価=評定」となっており、改めて評価について考えたい先生
「主体的・対話的で深い学び」を目指す授業を実践し、それらをいかに評価するか研究中。
実施する数学の授業では、「ルーブリック評価」「振り返りシート」「生徒相互評価」などを導入し、学力テストのみに依存しない「学びに向かう力」の育成に向けた評価実践を継続中。
目次
現在の評価に対する課題
現在の教育現場、特に高校における「評価」に対する課題は、
評価が学力テストのみに依存している
ということです。
つまり学力テストの点数をもとに、単純に「5・4・3・2・1」の評定をつけてしまうことが多いのです。
これでは、評価の3観点である
- 知識・技能
- 思考・判断・表現
- 主体的に学習に取り組む態度
において、「知識・技能」の割合がほとんどで、学習活動の一部しか評価できていません。
もちろん、難易度を上げて深い思考を必要とする問題を出題することで、他の2観点を評価できないこともないのですが、やはり学力テストのみでは難しいでしょう。
その結果、「主体的に学習に取り組む態度」の評価を提出物で行うという考えも一般的になってしまいました。
提出物を期限通りに出すことができたかを点数化し、評定に加えるというやり方です。
この評価方法の問題は、目的と手段がズレていること。
学力向上のための家庭学習であるはずなのに、提出することが目的となってしまいます。
その結果、答えを写すだけ、適当に殴り書き、などが起こってしまうのです。
また、目的と手段のズレという点では、何のためにテストをしているのかが曖昧になってしまっていることも課題の一つです。
単語テストを過度に行い、それらを全て点数化して評定に入れようとすることも、本来の生徒の力を伸ばす活動にはなっていません。
目的:生徒にどのような力を身に付けさせたいのか
手段:そのためにどのような教育活動を行い、指導するのか
評価:教育活動を適切に評価できているか、目的を達成するためのものになっているか
この観点が、「指導と評価の一体化」であると考えています。
▼テストの在り方については以下の記事でも紹介しています。
3つの評価について知る
上記のような課題を解決するためには、そもそも評価とは何かを考える必要があります。
評価が目的を達成するものとなるために、ブルームの評価分類について知っておきましょう。
診断的評価とは?
教師が学習指導を行う前に実施する評価のこと。
指導を開始する時点で学習者がどのくらいの学力を有しているかを判断するための評価です。
例えば、以下のようなものです。
これらを通して、目の前にいる生徒に「どのような力が備わっているのか」「どのような力が不足しているのか」を診断し、これからの教育活動を計画・実践していくのです。
形成的評価とは?
学習指導の過程において実施する評価のこと。
これまでの指導内容の結果、学習者にどのくらい学習の成果が見られるかを判断するための評価です。
例えば、以下のようなものが挙げられます。
単元テストでは「知識・技能」
ポートフォリオでは、生徒の思考の変化を見取る「思考・判断・表現」
振り返りシートでは、学習調整力を確認するなどの「主体的に学習に取り組む態度」
のように、さまざまな評価方法を用いることで、生徒の学習到達度を把握していきます。
そして教師がフィードバックを加えることで、次時以降の授業を生徒自身がよりよくしていくのです。
もちろん上記の評価の観点との関連付けは一例であり、その限りではありません
一つの方法に対して、複数の観点を評価することもできます。
それぞれの評価方法で、生徒の学習活動を多面的に評価していくことが重要です。
総括的評価とは?
学習指導の終了時において実施する評価のこと。
学習者の最終的な学習到達度を判断するための評価です。
例えば、次のようなものです。
ある期間を定め、その期間の最終時点で成績を渡すのです。
「5・4・3・2・1」の評定と「A・B・C」の観点別評価を行うことで、生徒の学習到達度を評価します。
また、数字だけではなく、生徒へのコメントなどのフィードバックを行うことも次の学習につながる有効な評価です。
一定の期間で見れば総括評価であっても、期間を伸ばせば形成的評価であるとも言えます。
一方的に成績を与えるだけでなく、生徒が次に繋げたいと思える評価をしたいですね。
3つの評価をバランスよく教育活動に取り入れよう
手段と目的を間違えないこと
上記に挙げた例は、私が実際に行なっている位置付けの一つに過ぎません。
例えば、「ポートフォリオ評価」に関しては、OPPA(One paper Portfolio assessment)とい手法があります。
1枚の紙に
- 単元の始めに生徒の既存知識・素朴概念を書かせる
- 授業内で気づいたことや大切だと思ったことなど、授業によって身に付いたことを書かせる
- 単元終わりに当初の素朴概念がどのように変容したかを書き、単元を通して振り返りを行う
などの過程を通して、学習活動を評価する方法です。
このように、一つの方法を用いて「診断的評価」「形成的評価」「総括的評価」の複数を実施することもできます。
繰り返しになりますが、大切なことは、
手段と目的が一致していること
です。
- 診断的評価に利用するはずのテストを成績に入れる
- 形成的評価に利用するはずの提出物に期限を設けて成績に入れる
これらを行なってしまうと、教員の業務は多忙化し、生徒も目的からズレた学習に走ってしまうのです。
学力テストのみ、総括的評価のみに依存しない評価活動を行う
そして、適切な評価を適切なタイミングでバランスよく行うことが大切です。
先生方の中には、全ての評価活動を「総括的評価」として考えてしまう方がいます。
診断的評価に使うテストも成績に、形成的評価に使う自学自習用ノートも成績になど…。
また、一方的な授業を行って、形成的評価を一切行わずに、定期テストの結果だけを見て評定をつける。
このような評価もよく見られます。
いずれにしても、 評価 = 総括的評価 に陥ってはいけません。
診断的評価により、生徒の既存知識を知る
形成的評価により、生徒の学習意欲を向上さる
診断的評価によって、生徒の目標到達度を伝える
このバランスを意識して、教育活動を行う必要があるでしょう。
そして、学力テストのみに依存せず、生徒の成果物や学びに向かう姿勢を適切に評価し、総合的に評定や観点別評価をつけていく必要があります。
まとめ:3つの評価を理解することから評価実践が始まる
今回は、適切な評価を実施するための「評価の3類型」について紹介しました。
評価の3類型とは、
- 診断的評価
- 形成的評価
- 総括的評価
の3つです。
これらを適切なタイミング、適切に活用することで生徒の学力向上をサポートすることができます。
- 生徒の学力を診断し授業を設計する
- 授業の過程で生徒の学びを評価し、学習の質を高める
- 総括として、生徒の学習目標到達度を評価する
これらの評価を適宜バランスよく行いましょう。
そうすることで、手段と目的が一致し、
- 生徒が目的とズレた間違った学習方法を行う
- 教員の無駄な業務に対する負担
を解消することができるでしょう。
まずは、評価の土台をしっかり理解し、その上で具体的な評価手段を実践していきたいですね。
今回の記事が改めて評価について考えるきっかけとなれば嬉しいです。
適切な評価で、生徒の学びに向かう意欲を高め、主体的な学習の実現を目指しましょう!
最後に国立教育政策研究所のリンクを掲載します。
これからの時代に必要な評価の考え方がまとまっていますので、ぜひ一読ください。
「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(小学校・中学校・高等学校)
学習評価の在り方ハンドブック(小中学校・高等学校)
国立教育政策研究所
採用試験で勉強したけど、いまいち理解して評価を行っていないです。