最初の授業では、授業開きを大切にしていますね。
高校では学習内容が多いことから、新年度からどんどん授業を進める場面を目にします。
しかし、最初の授業でしっかり授業開きをすることは、1年間学習を進める上で重要な役割を果たします。
授業は生徒と教師でともに学びを創る場ですから、授業開きによる方向性の共有は大切です。
今回の記事では、授業開きで何を伝えるか、私自身の経験から紹介していきます。
「1年間の授業をよりよくしたい」「よいスタートを切りたい」という方はぜひ読んでみてください。
高校の数学教員として10年以上授業を行っています。
ただ学習内容を教えるのではなく、「学び方を教える」をモットーに授業作りをしています。
チョーク&トークの授業から生徒主体の授業に切り替えたことで、進学実績の向上を体験。
以来、主体的な学習を実現するための授業を模索しています。
目次
実は重要!授業開きをしっかり行うべき理由
新年度の最初の授業、どのように進めていますか?
新入生には丁寧に説明をした方がいいと思いますけど、2,3年生は簡単に話をして授業に入っちゃいますね…。
新入生は高校生活にまだ慣れておらず、緊張しているでしょう。
これから始まる高校での学習に不安もあると思います。
多くの先生が、中学校から大幅に増加する学習内容についていけるよう、学習の手順を伝えるかもしれません。
一方2,3年生ともなると、高校生活にもだいぶ慣れています。
ですから、1年間の学習内容の見通しを簡単に伝える程度で授業を開始してしまうかもしれません。
「学習内容が多く、大学受験に向けた演習を行わないと!」なんて声も聞こえてきます。
しかし、学年に関係なく授業開きはとても重要です。
授業開きをしっかり行うことで、生徒の1年間の授業パフォーマンスが上がると考えています。
まさに「急がば回れ」といった感覚です。
もう少し詳しくみていきましょう。
生徒は新たな気持ちで新年度をスタートさせたいと思っている
新年度は新しい気持ちで何かを取り組もうとします。
「今年はこんな授業をしてみるぞ」と意気込むことがありますよね。
生徒にとっても、大小はあれど新しい気持ちで物事に取り組もうとするタイミングです。
そこを教師のサポートによって刺激してあげるのです。
そうすることで、「今年も頑張ってみよう」「今年こそは!」と少しでも思ってもらえるようにするのです。
新年度は前向きに取り組むチャンスということですね!
新しい教科担任が、どのような教師か分からない
新年度は授業担当者が変わります。
持ち上げでも、クラス替えによって授業をしたことがない生徒がいることもあるでしょう。
生徒の学習へのモチベーションの一つとして、誰に教わるかがあります。
「何を言うかではなく、誰が言うか」
という言葉があるように、誰が授業をするかは少なからず心配事としてあるはずです。
そこで、これから授業を行う教員がどのような授業をするのかを伝える場面として、授業開きが必要なのです。
面白い自己紹介をするという話ではなく、どのような授業を行うのかがポイントです!
確かに心の準備なく、猛スピードで授業を進められたら壁ができそうです。
1年間どのような授業が行われるのかを説明し、それを理解することで生徒も準備をすることができます。
持ち上げの場合でも同様に説明が必要でしょう。
学年が上がれば、生徒に身につけさせたい力は変わります。
昨年と全く同じ授業をするのではなく、教員が授業を更新し続けている姿を生徒に見せるのです。
教員に対する見方がアップデートされることも大切です。
生徒と教師の授業観が一致しないと学習効果が高まらない
「主体的・対話的で深い学び」に向けた授業が騒がれて久しいです。
この記事を読んでくださっている多くの方は、すでに実践していると思います。
しかし現場全体として、まだまだ授業改善が必要な状況です。
例えば
「グループ学習や発表なんてしたことがない」
そのような生徒に、いきなりグループ活動をさせてもうまくいきません。
自分が生徒のためになると考えて取り入れた授業形式でも、意義が感じられなかったり慣れていなかったりする生徒であれば十分に力を発揮できない可能性があります。
また協働学習が大切とはいえ、先生が講義形式で説明してくれた方がよいと思う生徒もいます。
特に一人で学習を進められる生徒にとって、協働学習の意味を見出せない生徒もいるかもしれません。
効果を期待して取り入れた授業でも、生徒の納得が得られていないこともあるのです。
確かに生徒主体の授業形式でも、そのシステムは教師主導ですよね。
そうなんです。
だからこそ、「授業の進め方」や「先生の持たれている授業観」をしっかりと授業開きで伝えたいのです!
どのような場面で、どのような意図で、どのような授業の形式を取るのか。
生徒と教師の授業観を一致させることで、授業参画の意識が高まるのです。
信頼関係を築くための最初のステップである
最後は、「授業開きが生徒との信頼関係を築く最初のステップになる」ことです。
いきなり授業を始めて宿題も出されたとしたら、不安は募るばかり…。
授業の説明や学習の意義を伝えてくれることは、生徒にとって安心につながります。
授業開きを丁寧に行うことで
「この先生なら何か大丈夫そう」
くらいの感覚を持ってもらえれば大成功です。
本当の信頼は、授業を通してしっかり作っていくもの。
初めにしっかり授業開きをして、その内容を授業の中で理解してもらうのです。
最初に壁ができてしまうとそれが難しいのです。
学級開きでは、黄金の三日間などと言われますが授業も同じですね。
授業開きで伝えたいこと7選
授業開きを行う理由はわかりました。
では授業開きで具体的に何を行っていくのがよいでしょうか?
私の経験の中で「実践してよかった」と思えるものを紹介していきますね。
① 学習の意味を伝える
「なぜ学ぶのか」この本質がやはりスタートです。
大学進学を目指す高校であれば、大学受験は一つの目標になるでしょう。
しかし、生徒によっては受験に必要のない科目かもしれませんし、そもそも大学以外の進学先を選択する生徒もいるでしょう。
ですから、ここでは個別の目標というより、そもそも教科・科目をなぜ学ぶのかに焦点を当てます。
例えば数学科であれば、学習指導要領解説に数学教育の意義として
の3つの観点が挙げられています。
実用的な意義 | 陶冶的な意義 | 文化的な意義 |
---|---|---|
数学は社会や生活の中で重要な役割を果たしていること | 客観的かつ論理的に自分の考えなどを説明する力を育成する | 人類が社会や生活を発展させる中で継承されてきた数学を学び、その発展に寄与すること |
法律の解釈 保険や金融の仕組み 確率や統計学 プログラミングの思考 工学など学問の基礎 | 知的好奇心・豊かな感性・想像力・直感力・洞察力・論理的な思考力・批判的な思考力・粘り強く考え抜く力など創造性の基礎を養う | パズルゲームや数字遊びなど数学自体を楽しむ コンピュータを活用することやその本質も理解してみる |
もちろん学習指導要領は教員が読むものですから、高校生にこのまま伝えても伝わりません。
生活の中での実体験などを踏まえながら、具体性を持たせて説明をすると伝わりやすいと思います。
学習指導要領のように公的なものは、説得力がありオススメです。
もちろん、ご自身の経験から学習の意味を伝えてもよいでしょう。
定期テストや大学受験など目の前の目標は大切ですが、より上位の意義を感じてもらえると1年間の学習がイキイキと行われます。
② 学習の目標を伝える
学ぶ意義って大切だけど、抽象的で伝わりにくい部分もありますよね。
そうですね。
ですから、目の前の目標を示してあげることも大切です。
学習の目標としては、学習指導要領にも記載がありますね。
数学科の目標は以下のように記載されています。
数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力
を次のとおり育成することを目指す。(1)数学における基本的な概念や原理・法則を体系的に理解するとともに,事象を数
引用:高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 数学編 P23
学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を身に付け
るようにする。
(2)数学を活用して事象を論理的に考察する力,事象の本質や他の事象との関係を認
識し統合的・発展的に考察する力,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確
に表現する力を養う。
(3)数学のよさを認識し積極的に数学を活用しようとする態度,粘り強く考え数学的
論拠に基づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めた
り,評価・改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養う。
これも抽象的な表現で、先ほどの数学を学ぶ意義よりさらに高校生にとって難しいかもしれません。
そもそも学習指導要領の目標は、教師が目指すべきものであって、生徒からすれば先ほどの数学を学ぶ意義と同じです。
ですから、生徒にとっては現実的な目標として捉えにくいでしょう。
ここではもう少し現実的な目標を考えてみます。
例えば、大学受験は分かりやすいですね。
令和4年度の学校基本調査によると、大学への進学率は56.6%にまで伸びています。
ですから多くの高校生にとって大学進学は目標の一つです。
大学への進学が少ない学校の場合には、どのレベルまで到達してほしいかを伝えておくのでもよいでしょう。
大切なことは、教員が目の前にいる生徒の実態に対して具体的な目標を示してあげることです。
このように、目の前の生徒の実態に応じて、教員側の目指したい目標を伝えるのです。
授業を通して、どこまでたどり着いて欲しいのか。
生徒からすれば、授業をしっかり受けることでどこまで到達できるのか。
このような動機づけも学習者のモチベーションとしては大切です。
生徒によっては、動機づけを差し伸べてあげることも重要なんですね。
学習の意義や目標に働きかけることで、「やらされている授業」から「自分から学びたい」「学ばなければいけない」と思ってもらうことがポイントです。
▼「動機づけ」については、こちらの記事でも紹介しています。
③ 授業の進め方を示す
今年は生徒の活動の時間を増やしたいんですよね。
それも授業開きでぜひ紹介しましょう!
授業の進め方は先生によってそれぞれです。
などの授業の形態に関するものもあれば
など細かい実践もあるでしょう。
このような授業の進め方についても、意義や目的を生徒と共有をすることで学習への取り組みが高まります。
事前に伝えることで、意味を見出して取り組んでくれるかも。
例えば数学では、生徒に問題の解説をしてもらう場面があります。
発表では、数学的な根拠を述べる必要性や他者に説明することで理解が深まること、質問や意見を交換することで異なる問いの見方を共有するなど、そのよさを説明します。
また、入試問題や日常に関連づけたような探究的な課題は、
個人追求→協働学習→個人での振り返りのサイクルを大切にしています。
大学入試などでは、最終的に個人で問題解決をしなければなりません。
「協働学習で学んだ学習方略を自分のものにするために個の時間を大切にしよう」と伝えるのです。
生徒主体の授業は、生徒にとって多少の負荷がかかります。
でも学力向上に大切だからこそ、しっかり説明をしてあげましょう!
生徒に納得感がなければ「やらされている授業」「めんどくさい授業」になってしまいますよね。
④ 教育観を伝える
教育観ってどうのようなことですか?
このような授業をなぜ行うのか。
自身の想いも知ってもらうことです。
例えば、協働学習についてです。
近年はオンライン学習が進み、学校に集まって学習をすることの意義が再確認されるようになりました。
個人で黙々と学習することは家でもできます。
他者とわざわざ一つの場所に集まって学習をするからには、その意味と効果を考えなければなりません。
主体的・対話的で深い学びという言葉が出る以前、アクティブラーニングってなに?という時代がありました。
当時、教員の中で協働学習はなかなか受け入れられませんでした。
ですから、生徒もどのように授業を受ければよいのか困惑している状態だったのです。
そのような際、生徒に協働学習の意義を伝えることは1年の授業を進める上で効果的でした。
このように、自身の教育観を伝えることは、生徒と教師が同じ方向を向いて授業を行うための大切なポイントです。
どのような授業をするのかが分かれば、生徒との信頼関係につながるかもしれないですね。
あまり重苦しいのも嫌なので、ゲームで伝えたこともありましたね。
意義を語るだけでなく、ちょっとしたゲームを行うこともオススメです。
NASAゲーム(一人で答えを出すより、複数人で答えを出す方が正解に近づく)など授業開きで取り入れたこともありました。
対話的な学びがまだまだ実現していない学校では、ぜひ取り入れてみてください。
⑤ 評価の基準を示す
生徒との信頼関係をつくるには、評価の基準を示すことも有効です。
成績をどのようにつけるか、ということですね?
成績はブラックボックス化しやすい部分です。
自分よりテストの点数が低い友人の評定が高く、間違いがないか確認に来るなんてこともあります。
もちろん評定はテストの点数だけではありませんから、そのようなこともあるでしょう。
しかし、生徒からしてみれば、そもそも成績の付け方を教えてもらっていないわけです。
それは「自分がどこを目指して学習をすればよいのか」が示されていないのと同じこと。
適切な評価を行うためには、目指すべき地点を授業開きでしっかり伝えることが重要です。
授業評価にインフォームド・コンセント(説明と同意)を取り入れるという考え方があります。
医療分野で使われている言葉ですよね?
学校現場においても評価方法を説明し、適切に評価を実施する、そして評価の根拠をしっかり伝えられるようにしておく。
生徒が納得した上で、授業・評価を行うのです。
このように学力試験、学習成果物、授業内での活動などを総合的に評価する基準を予め生徒に伝えます。
もちろん課題ごとに評価基準を示す場合もあるでしょうから、授業開きの段階では大まかな部分しか示せないこともあります。
評価の枠組みを事前に示しておくだけでも、学習への取り組みは変わります。
⑥ 試験の流れを伝える
評価と同じく、試験に関する情報も事前に伝えたいことの一つです。
とにかくギリギリまで教科書を進めて、定期試験の範囲は進んだところまで。
これでは生徒が主体的に学びに向かうことができません。
教員主導の一方的な授業と試験だからです。
事前に試験の実施方法や大まかな範囲と到達目安を伝えておくことで、生徒は計画的に学習に向かうことができます。
試験は成績の大部分を決める重要なものです。
評価方法とセットで伝えることで、より具体的な学習への取り組みが期待できるでしょう。
先に試験の概要を考えておけば、その力をつけるための授業もできますね!
「逆向き設計」「指導と評価の一体化」と関連している考え方ですね。
▼テストの在り方についても紹介していますので、参考にしてみてください。
⑦ 学習方法を伝える
最後は家庭学習への取り組み方について伝えることです。
高校段階は、自律的な学びを身につける時期です。
年齢が上がるにつれて家庭学習の重要性が高まります。
大学に行けば講義は週1回で、単位修得のための学習は大半が自学です。
社会人になれば、基本的にすべて自分で学びを創ります。
そのため、高校とは教師が具体的な学びの支援をしてあげられる最後の場なのです。
例えば
- <1年生> 高校の学習についていくための基本的な家庭学習の取り組み
- <2年生> より専門的な教科や学習内容のための家庭学習の工夫
- <3年生> 大学受験に向けた戦略的な学習
などが考えられます。
学年が上がれば家庭学習をアップデートしていく必要があります。
だからこそ、毎年の授業開きで家庭学習の方法をぜひ伝えたいのです。
教師が生徒の実態に応じて家庭学習を手引きしてあげることで、より効果的な授業にもつながります。
ここでのポイントは一律の宿題を課さないことです。
生徒によって学力や適切な学習方略は異なります。
また、自身で学びを創るための自律の段階も異なります。
生徒が自分で家庭学習を考えられる工夫をしていきましょう。
押し付けや過保護にならず、生徒の実態に応じた支援を心がけます!
▼「個別最適化された家庭学習」について、こちらの記事でも紹介しています。
▼「学習観」について伝えることも有効です!参考にしてみてください。
まとめ:生徒とともに学びを作り出す準備をしよう
今回の記事では、授業開きを行う理由とそのポイントについて紹介してきました。
進学校などでは、授業開きを簡単に済ませて学習内容に入ることが多いかもしれません。
しかし、授業開きは1年間の学習を効果的に進めるためにも重要な役割を果たします。
1時間分しっかり行ってもよいくらいだと私は考えています。
授業開きをしっかり行うことで、生徒との信頼関係を築くきっかけになります。
授業は生徒と教師で創るものです。
信頼関係があってこそ生徒は力が発揮できますし、教員の想いも伝わるでしょう。
これまで、「授業開きを疎かにしていたなぁ」という方はぜひ取り入れてみてください。
一度に全部は難しいと思いますので、一部だけでも参考にしていただければ嬉しいです。
▼今回の記事に興味を持ってくださった方は、こちらに記事もどうぞ!
新年度が近づいてきたので、来年の授業について考えたいのですが何かポイントはありますか?