ルーブリック評価は、ペーパーテストだけでは測れない生徒の成長を評価できますし、授業改善にも役立つツールです。
一緒に学んでいきましょう!
「ルーブリック評価ってイマイチよく分からない」
「聞いたことはあるけど実践には移せていない」
「やりたいけど時間や人が足りない」
そのような先生方は多いのではないでしょうか。
ルーブリックとは、パフォーマンスの特徴を難易度ごとに分けた表のことです。
ルーブリックを利用することで、教員同士の共通認識が図れたり、授業で目指すべき到達点を分りやすくしたりなどメリットが多くあります。
また、ルーブリックを作成すること自体が教材研究や生徒の実態把握につながり、教師としての資質・能力を高めることにもなります。
今回は、「ルーブッリックとは何か」を具体例とともに紹介し、その上で作成のためのポイントを紹介していきます。
診断的評価・形成的評価・総括的評価いずれにも使用できるルーブリック。
「これからルーブリックを活用してみたい!」という先生方は、ぜひご覧ください。
「診断的評価」「形成的評価」「総括的評価」についてはこちらの記事も参考にどうぞ!
高校教員として、数学を10年以上教えています。
内容をただ教え込むのではなく、「数学の学び方を教える」をモットーに授業を実施しています。
生徒が主体的かつ協働的に学ぶ授業スタイルを目指しています。
授業開きには生徒にルーブリックを示し評価方法を共有することで、生徒は目指すべき状態を把握しながら学習に取り組んでいます。
目次
ルーブリック評価とは?
「ルーブリック評価」ってよく耳にしますが、よく分かっていません。
まずはルーブリック評価について確認しておきましょう!
ルーブリック評価ってなに?
ルーブリックとは、以下のようなものを指します。
成功の度合いを示す数レベル程度の尺度と,それぞれのレベルに対応するパフォーマンスの特徴を記した記述語からなる評価基準表である。
引用:西岡 新しい教育評価入門ー人を育てる評価のために[増補版] p154
このようなルーブリックをもとに、学習達成度を評価していくこと。
それがルーブリック評価です。
ルーブリック評価のメリット
ルーブリックを用いることで基準がぶれず、評価がしやすくなりそうですね!
その通りです!
ルーブリック評価には、他にもメリットがありますよ!
ルーブリック評価を実施することは、多くのメリットがあります。
高校は同じ科目を3〜4人でみることも珍しくありません。
評価基準を教員同士で揃えることで、クラスごとに指導内容の差が生じないようにすることができます。
また経験の浅い先生にとっては、授業を進める上で目安となってくれるでしょう。
先生方の個性を発揮しつつも、共通認識があることは生徒にとっても安心ですね!
一方で生徒の立場では、教員が定める授業目標や学習到達度が把握できるため、生徒は目的地を明確にしながら学習を進めることができます。
事前に評価基準が与えられていれば、通知表に記載される評定についても納得がいくでしょう。
また生徒へのメリットとしては他にも、生徒同士の相互評価がしやすくなることも挙げられます。
近年は協働的な学習が求められ、互いに学習をフィードバックする場面も見られます。
そのような活動をする際には、「何を」「どのように」評価するのか。
評価の視点をルーブリックで示すことで、相互評価がしやすくなります。
なんとなく授業に参加するよりも、目指すべき場所が分かった上で学習に取り組む方が効果的ですね。
そしてルーブリックを作成すること自体が、教員の教材研究や授業設計に役立ちます。
事前に評価基準を定め、それらを達成するための授業を行う。
そして、ねらいが達成できたかを授業者自身が振り返る。
このような指導と評価の一体化にも役立つのです。
ルーブリック作成のポイントも、後ほど紹介していきますね!
ルーブリック評価の例
ルーブリック評価のよさについて、よく分かりました!
具体的な活用の視点を教えてください。
私自身が行なっているルーブリック評価の切り口を紹介しますね!
ルーブリックを作成する目的は、授業者によって異なります。
様々な実践例がありますが、ここでは私自身が行なっている実践をもとにルーブリック作成の切り口を紹介します。
教科で活用するルーブリック
まずはメインである教科の授業です。
2022年度実施の学習指導要領にて、全教科で評価の観点が統一されました。
観点別でルーブリックを作成してみるのは、分かりやすくおすすめです。
上記のような視点で作ってみるのも一例です。
参考までに具体例も紹介します。
知識・技能は、単元ごとに学校が目指してほしい大学を考慮しながら難易度を設定してみる。
思考力・判断力・表現力は、記述力であったり図表の整理、発表などのパフォーマンス課題と合わせて設定してみる。
主体的に学習に取り組む態度は、見取りが大変難しいので、文科省が示す①粘り強い取組を行おうとする側面、②自らの学習を調整しようとする側面 の2つ視点から学習基準を設定することもアイデアの一つです。
出典:国立教育政策研究所 「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 p11
2022年度より高校でも観点別評価が導入されたので、ルーブリックを作成しておくと試験の作成やパフォーマンス課題の評価がしやすいですよ。
生徒にとっても到達目標が分かりやすいですね!
探究学習で活用するルーブリック
ルーブリック評価は、総合的な探究の時間や特別活動での評価にも相性がよいです。
探究活動には、ゴールがありません。
しかし、生徒にどのような探究活動を目指すべきなのかを示しておくことは大切です。
そこでルーブリックを活用することで、より良いパフォーマンスを可視化してあげることが有効です。
こちらも簡単な具体例を提示しておきます。
探究については、探究のサイクルである「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」ごとに設定するのも分かりやすいでしょう。
出典:高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 総合的な探究の時間編 p12
また発表活動などでは、生徒が発表の聞き手にも回ります。
相互評価をするためのルーブリックを作成することで、相互評価を行いやすくなり活動がより有意義なものとなります。
ペーパーテストがない教科は、ルーブリックがあることで目指すべき場所が分かりやすくなりますね。
ルーブリック作成のポイント6選
ルーブリック評価のイメージがよく分かりました!
ここからは、実際にルーブリックを作成するためのポイントを紹介していきます!
ルーブリック評価は、教育活動を有効に進める上で大変役立つ手法です。
しかしルーブリック評価をするためには、もちろんルーブリック自体を作成しなければなりません。
ルーブリックの作成は、ある程度の時間と労力がかかることは仕方ありません。
でも同じ時間をかけるなら、より良いものを作りたいですよね。
ここからは作成のポイントを紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
生徒の実態を把握する
ルーブリック作成の大前提は、目指す生徒像を意識することです。
生徒の実態を把握することは、ルーブリック作成において最も重要な行程です。
同じ数学Ⅰを指導するにしても、学校によって生徒に目指してほしい到達点は異なります。
したがって、
これらを自身の学校の生徒の実態に応じて作成していく必要があるのです。
学習内容に限らず、「生徒に身につけさせたい資質・能力」などに着目したルーブリックも同様です。
グランドデザインやカリキュラム・マネジメントによって定められた育てたい資質・能力。
主体性・協調性・自立性・社会性・創造力・プレゼン力・問題発見能力など、学校によって様々な資質・能力が挙げられています。
しかし、このような言葉は抽象的であるため、生徒は具体的な理解ができません。
教員同士でも人それぞれ定義が異なっており、共通認識を持てていない場合もあります。
ルーブリックを作成することによって、抽象的な言葉を学校ごとの実態に応じて噛み砕いていくこともできるのです。
生徒の実態把握し、目指す生徒像を共通認識として確認する作業が大切なのですね。
初めから5段階にこだわらなくてもよい
実際につくり始める段階になったら、まずは3段階程度で作成してみましょう!
先進校の実践や書籍などのルーブリックを見ると、立派なものが仕上がっています。
そのようなルーブリックは尺度が5段階のものも多く、一から作ろうと思っている先生方からすると気が重たくなります。
ですから、初めは3段階くらいで作成してみるのがよいでしょう。
もっとハードルを下げるのであれば2段階でもよいかもしれません。
2つの尺度ならハードルが下がりますね。
尺度が多くなるということは、それだけ評価の見取りが細分化されることでもあります。
複数人で評価を実施する場合はもちろん、自分一人でも評価の難易度が上がります。
また、初めから5つの尺度を考えることは単純に労力がかかり、ルーブリックを作成することが目的になってしまう危険性もあります。
ですから、初めは3段階(最低限、概ね満足、発展的)くらいにすることで生徒の実態を大まかに反映させ、慣れてきたら尺度を4つ5つと増やしていくのがよいでしょう。
2段階であれば概ね満足ラインのB基準、それ以上を目指す発展的な状態のA基準などでもよいかもしれません。
まずはできる範囲での作成が大切ですね!
ルーブリック活用してみることを優先し、運用しながら精度を上げていきましょう!
B基準を丁寧につくる
内容面でもう一つ。
優先して作成する尺度は、全員に達成してもらいたい「概ね満足できる(B基準)」の項目です。
尺度が5段階や3段階と異なる場合でも、ルーブリックを作成するときはB基準から手をつけると作成しやすいです。
B基準とは「概ね満足できる」の段階。
言い換えれば、全員に達成してほしい基準のことです。
すなわち目標や評価規準となるものです。
近年は個別最適化された授業や評価が期待されています。
ただ集団で授業を行っている以上、全体が目指すべき方向性をもつ視点はやはり大切です。
「学校や学年として、全員にここまでは身につけてもらいたい」
この基準は所属校によって様々でしょう。
B基準をしっかり定めることで、すべての生徒に身につけさせたい力の育成を図ることを目的とします。
その上で、
- さらに発展的な力をつけさせたい生徒向けにA基準をつくる
- 最低ラインとして達成してほしい部分としてC基準をつくる
- 細分化して尺度を増やす
という手順で基準を視覚化していきます。
評価規準は普段から意識しているので、そこから細分化していくと考えれば作成しやすいですね!
評価の段階は量ではなく、質にこだわる
尺度ごとのパフォーマンスを考えるときには、達成項目の「量」だけでなく「質」も意識してみましょう!
パフォーマンスを考えるときに、「量」のみに着目してしまうことがあります。
具体的には、尺度が上がるごとに求めるパフォーマンスの内容を追加していくなどです。
具体的には下図のようなものです。
このようなルーブリックは「声が大きこと」が前提になっています。
声は大きくはないけれど、手元の資料を見ずに発表している生徒はどう評価するのでしょうか?
手元の資料は見ているけれど、積極的に他者に問いかけ聞き手と対話をしながら発表を進められている生徒はどうでしょうか?
このように単独の項目を複数達成していることで高い評価になるような設定は評価がしにくい場合があります。
質に着目し、尺度1よりも尺度2の方がより高次元の資質・能力になっている。
そのような評価基準の作成が望ましでしょう。
そのためには、「対話力」など学校が設定する目指す生徒像をしっかりと分解し噛み砕いていくことで、評価基準を作成していくことが大切です。
これは作成者同士の対話が大切そうです。
複数人でつくる
ルーブリックは複数人でつくることが大切です。
そもそも一人での作成自体が大変であること。
そして、評価にとって大切な「信頼性」と「妥当性」を高めるためです。
そもそもルーブリックの作成には相当な労力がかかります。
一人ですべての単元を作成することは、膨大な時間を必要としますし精度を高めることも難しいでしょう。
また、心理学的な見地からもルーブリックを複数人で作成することの必要性が述べられています。
ルーブリック作成にあたって,できれば3名以上の教員による合議によって「記述語」や「尺度」を練り上げていくことは,それが可能ならばルーブリックの信頼性と妥当性の向上のために大変望ましいことではあるが,現実的にはかなり難しいだろう。
引用:山口 学習の支援と教育評価 p180
「信頼性」「妥当性」ってなんでしょうか?
信頼性とは、同じ評価方法を用いた際に同じ結果が出るか、安定しているかということ。
妥当性とは、その評価方法において、どれだけ正しく評価できているかということ。
より正確に評価を進めるためには、その評価指標であるルーブリックができるだけ高い妥当性を持っていることが大切です。
したがって、一人よりも複数人の知恵を合わせて作成することが望ましいのです。
ただ引用にもあるように、現実的には複数人で時間をとって作成することは難しいです。
そのため以下のような方法がおすすめです。
数学や英語など教員の人数が多い教科は、長期休業を利用し分担して作成するのもありです。
人数の多い教科や分掌単位での教育活動で使用するルーブリックは、複数人で作成をすることができます。
普段は通常業務で忙しいので、長期休業などを活用して作成するのがおすすめです。
そのとき、あまり乗り気ではない先生方もいるでしょう。
そのようなときには、ルーブッリクの必要性を感じている人が中心となって叩き台を作成しましょう。
そして、他の先生方に意見をもらい作成に関わったという事実をつくることが大切です。
作成に関わっていないとルーブリックの使用が広まりませんし、適切な評価にもつながらないからです。
人数が少ない教科はどうしましょう。
そのような場合は、近隣の学校や書籍から大枠のヒントをもらいましょう。
物理的に複数人を集めることができない場合は、無理に一から作ろうとしないことです。
すでに世の中にはたくさんの実践が存在します。
近隣の学校や書籍等で見つけたルーブリックをもとに、自身の学校の実態に応じてアレンジをしていきましょう。
完成したルーブリックには、複数人の視点がすでに織り込まれているわけですから、かなり良いものである可能性が高いです。
人数の多い教科でも、もちろん使わない手はありません。
「生徒の実態を把握する」ことが大切なポイントでしたから、そのまま使うのではなく、目の前の生徒に応じて作り変えることが重要ですね。
そのほかにも自校でメンバーが集まらない場合には、自治体ごとの教科部会で仲間を見つけ、ルーブリックを作成してみるのよいです。
適切なルーブリック作成のためにも、仲間づくりが大切ってことですね!
毎年改善を図る
最後6つ目のポイントは、一度で完璧なものを目指さないことです。
ルーブリック作成で大切なことは、作成者同士や使用者とのコミュニケーションを図ることです。
先ほど述べたように複数人で作成することも大切なコミュニケーションの一つです。
そして初期の一回で終わらせずに、コミュニケーションを図りながら定期的に改善していくことも大切なのです。
一度ルーブリックを活用してみることで、上記のような改善点が見つかるでしょう。
批評価者である生徒に、改善点を尋ねてみるのも一つの方法です。
パフォーマンス課題とセットでルーブリックを提示した際に、生徒が内容を理解できているかを確認するのです。
- 目指すべき到達点が理解できたか。
- 教員用の文章から生徒用の文章へ直すとき、伝わりやすい文章になっていたか。
実際に教育活動を行う生徒から直接聞いてしまった方が正確で早い場合もあります。
ともに学びを創るもの同士で到達点を確認することは、悪いことではありません。
以上のようにルーブリックは一度作成したら終わりにしてしまうのではなく、毎年の改善を行うことが重要です。
自分が今後使用するルーブリックはもちろん、次の学年に引き継がれる学校の財産ともなります。
そして何より改善を図る中で、ルーブリックの作成が上達していくメリットもあります。
PDCAを回す、振り返りを行うことが、より良いルーブリックにつながるのですね!
まとめ:ルーブリックを作成し生徒の成長を楽しもう!
今回は、「ルーブリック評価とは?評価基準をもとに学習到達度を評価しよう!」ということで、ルーブリックの活用例と作成のためのポイントを紹介してきました。
ルーブリックとは、パフォーマンスの特徴を難易度ごとに分けた表のことでした。
このルーブリックを批評価者である生徒に事前に配付をして教育活動を進めることで、学習の到達度を測ることができるのです。
ルーブリック評価のメリットとして、以下を紹介しました。
ルーブリックを活用すること、教員は授業改善や統一した視点を持つことができ、生徒は授業内で何を身につければよいのかが明確になるのでしたね!
高校でも観点別評価が取り入れられ、指導と評価の一体化が求められる中、評価方法の一つとしてルーブリック評価の活用が期待されています。
ぜひ活用をして、よりよい教育活動を実現したいものです。
しかし、ルーブリック作成には大きな労力が伴うのも事実です。
時間や教員の資源が足りないこと、そもそもどのように作ればよいのかが分からない。
このような現状の現場がほとんどでしょう。
そこで、作成のためのポイントも紹介しました。
B基準を中心に尺度を増やしすぎない。
初めから完璧を目指さず改善を前提とする。
この視点があればハードルを下げられそうですね。
労力を最小限に抑えながらも、
「目の前の生徒の実態をしっかり把握すること」
「振り返りを通してルーブリックの質を高めていくこと」
ここはしっかり押さえたいところです。
ルーブリック評価は、定期テストの点数だけでは測れない生徒の成長を評価できるツールです。
学校が育てたい生徒像を持ち、生徒が目標を持って成長していく。
教育に携わるものとして、これ以上の喜びと楽しみはありません。
この記事が先生方のルーブッリック作成ならびに評価方法の改善につながれば嬉しいです。
▼今回の記事に興味を持ってくださった方は、こちらに記事もどうぞ!
ルーブリック評価ってよく聞くけど、まだ取り組めていなくて…。