授業力向上のためには、インプット・アウトプット・アウトカムの3つの要素が必要です。
特に新しい実践や理論を学ぶためのインプットは、日々変化を続ける学校教育において重要なポイントとなります。
一番身近な学びは、学校内で他の先生の授業を見させてもらうことです。
ですが今回はそこから一歩外に足を踏み出して、授業改善を促進させる学校外での自己研鑽法について紹介をしたいと思います。
結論から述べると今回紹介するものは以下の9つです。
当たり前のものが多いですが、私の経験を踏まえて学びの視点を紹介していきます。
以下一つずつ詳しく紹介していきます!
高校教員として、数学を10年以上教えています。
初任の頃から書籍・雑誌等で得た学びをもとに毎年目標を決めて授業改善に取り組んでいます。
教科部会の事務局長や教職大学院への進学などをきっかけに、「学校外での学び」や「理論と実践の往還」の重要性を感じ学びの幅を広げています。
目次
授業力向上のサイクルを回そう
まず前提として、授業力向上のためにはインプット・アウトプット・アウトカムの三つの要素が必要です。
- インプットとは、良い実践や理論的な背景を学ぶこと。
- アウトプットとは、インプットをもとに授業計画を立てて実践に移すこと。
- アウトカムとは、自身の実践の成果を検証・評価し、振り返ること。
この3つのサイクルを回すことで、授業がよりよくなるのです。
アウトプットに関しては、授業を毎日しているわけですから常に行われています。
一方、日々の業務の忙しさから、インプットとアウトカムが疎かになっているケースは少なくありません。
特にインプットは、目まぐるしく変化する教育活動に対応してくために重要な要素です。
例えば協働的な学習についてです。
グループ学習の効果を特に考えずに形だけのグループ学習をしてしまうことで、おしゃべりで終わってしまう。
そのような授業があります。
そこには対話的な学びという言葉だけが先行して、授業者がその趣旨や必要性を理解せずに授業を行ってしまっていることが原因の一つです。
生徒に学びを教える立場の教員だからこそ、常に学び続ける姿勢を持たなければいけませんね。
学校外での学びを充実させる
では授業改善のためのインプットを考えたとき、一番身近なものは同僚の授業を見させてもらうことです。
同じ学校の生徒を教えている授業だからこそ、すぐに取り入れられる実践が多いのが特徴です。
校内授業参観の見方については別の記事でも紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。
ただ校内授業参観にも、デメリットはあります。
もちろん学校によって実情は異なると思います。
しかし国立大学の附属高校や先進校と異なり、一般的な学校では授業改善に意欲的に取り組んでいる先生方は多くはないでしょう。
初任の頃は「どの授業も新しい発見ばかり」だった人も、年数が経過するにつれて見たいと思える授業が限られてくるのではないでしょうか。
そこで新しい実践に挑戦するためには、校内での学びや実践を軸としながら、外の世界に飛び出すことが必要なのです。
日本全国には、様々な実践に取り組んでいる先生方がいます。
新しい視点を手に入れることで、自身の授業改善に繋げていくのです。
また外の世界での学びは、自身の授業スキルが高まるのはもちろん、新しい視点を学校に持って帰ることで学校に新しい風を入れることもできます。
このように同僚に新しい視点を提供することは、学校内のミドルリーダーになっていく要素の一つでもあります。
授業に活かせる内容を学び、実践していくことが大切なのですね。
学校外の自己研鑽9選
では本題の授業力向上のための方法を一つずつ見ていきましょう。
当たり前のものもありますが、私なりの解釈で紹介をしますので参考にしてみてください。
書籍から学ぶ
まずは王道の書籍です。
日本では教員自身で研修を行うなど、専門性を高めるための文化が根付いています。
書店を訪れてみても、教育書コーナーはかなり広い範囲で設けられています。
これらを活用しない手はありません。
書籍のよいところは、著者の人生を追体験できることです。
著者の考えにじっくり触れることで、自身の授業への考え方など根っこの部分も深めていくことができます。
最近では、SNSで話題になっている個人の方が出版しているものも多くなってきています。
多くの人の教育観に触れることは、授業の幅を広げるきっかけになりますね。
具体的には、どのような本がオススメですか?
教育書選びのポイントの一つとして、実践本と理論本を区別することです。
現場の先生が書かれている実践本は、実際に取り組まれた内容で分かりやすく、すぐにでも自分の授業に使えそうなものが多いです。
一方、大学に属している教授が書かれている本は、研究ベースで理論が書かれているものが多いです。
こちらは、即効性はありませんが、自身の授業力の根本を磨いていく上では欠かせません。
実践本と比較して理論本は読むのに時間がかかりますが、こちらも授業力を上げるために役立つものです。
書籍は授業改善において必須ですので、日頃から読む習慣をつけましょう。
雑誌で実践を見つける
書籍よりも気軽に実践を知りたい人は、教育雑誌もオススメです。
雑誌には実践が直接載っていますから、授業のネタ探しには最適です。
論文形式の雑誌では、先行研究や引用文献なども記載されており、理論ベースの実践が掲載されていることも多いです。
ただし、小中高の内容が一冊になっているものも多く、特に高校の実践内容は少ないのが現状です。
購読の際には試しに1冊購入をしてみて、実践に活用できそうな内容が書かれているか確認してみることをお勧めします。
ただ他校種の実践についても、教材は異なれど同教科として考え方を参考にすることができますので、私自身は興味を持って読んでいます。
また直接授業に活用できない専門的な記事もあります。
こちらも他校種の実践同様、教科の専門性を高めるのには有効ですので目を通してみるのもよいでしょう。
以下、教科ごとの雑誌と発行している出版社・団体をいくつか紹介しておきます。
義務校向けのものが多く、高校に特化したものがないのがちょっと残念なのですが…。
ネット上で実践を見つける
お金をかけずとも良質な実践を見つける方法として、ネットで研究論文を読む方法があります。
最近はSNSで実践を発信している人も増えました。
これ自体は、学びの入り口として面白いです。
ここで紹介したいネット活用は、もう少し深く学ぶための方法です。
それは、研究論文を読んでみることです。
研究論文の文体なので、慣れるまで難しい部分もありますが理論ベースのインプットとしては最適です。
教育関係の論文を検索するのに便利なサイトが、CiNiiです。
他にもGoogle Scholar や J-STAGE などの論文検索サイトがありますが、教育についてはSiNiiが一番使いやすいと思います。
早速、気になるキーワードで検索してみます!
近隣の公開研究会に参加する
研究指定などを受けている近隣学校から、公開授業の案内が回ってくることがありますよね。
目にしたことはありますが、まだ参加したことがありません。
「各校から必ず1名参加」などの形態であれば、教頭が関連する分掌や経験年数などを考慮して出張する先生を決めることが多いです。
一方、自由参加のものについては手を挙げれば参加できますから、興味がある内容であれば参加してみるのもよいでしょう。
多くの先生は行きたがらないことが多いので、手を上げれば参加できるはずです。
他校視察のメリットは、配属先の学校では取り組んでいない教育活動を自分の目で見ることができることです。
書籍では伝わらない生徒の表情や授業の空気感なども感じることができます。
また、一歩外に出てみると面白い取り組みをしている先生や学校を見つけられます。
すべてを取り入れることはできませんが、参考にすることはできるでしょう。
参加の場合は、授業変更やHRのお願いなどがありますので、他の先生方への配慮も忘れないようにしましょう。
先進校の公開研究会に参加する
別の自治体や先進校であれば、さらに新しい視点を発見できます。
先進校視察での学びは、新しい視点が得られること、自分の目で実際に見ることができることの2つを兼ね備えるとても充実ものです。
先ほど紹介した近隣の学校への視察は手軽に参加できる反面、同じ自治体のため新しい発見が少ないこともあります。
教育委員会の方針が同じであったり、「周りの学校がやっているから、自分のところでもやろう」という感覚が働いたりするからです。
しかし、先進校になるとまさに世界は広いという感じで、自身の学校では得られない学びに出会える確率が上がります。
参加者名簿には、北海道から沖縄まで全国の先生方が記されていることも珍しくありません。
自分の目で得た新しい発見は、効果が高そうです!
また授業者の話を直接聞けたり、質問したりすることも学びが深まるポイントです。
大きな公開研であれば、大学教授などの講演が設定されていることもあり、それもまた学びになります。
デメリットとしては、交通費がかかることです。
公開研究会は無料の学校が多いですが、地方の先生方は交通費がそれなりにかかってしまいます。
ただ、自己研鑽として参加するからこそ学びが深まる面もあります。
無駄なく参加したいですね。
ぜひ参加してみたいです。
どうやって参加すればよいのでしょうか。
他の自治体の案内は、学校に届きませんから自分で情報を得る必要があります。
書籍などで目にした気になる学校が、公開研究会をやっていないかHP上で探してみるとよいでしょう。
全国国立大学附属学校連盟のサイトでは、国立大学附属高校の公開研究会をまとめありますので参考にしてみてください。
また県内の研究会でない場合は、案内が来たとしても派遣文書はありません。
ですから基本は、身銭を切っての学びです。
ただ管理職に相談をして許可が出れば出張にしてもらうこともできます。
私自身も「総合的な探究の時間」が導入される際に、すでに探究活動に力を入れている学校に出張で視察をさせてもらいました。
この場合、公開研でなくとても校長同士のやりとりで、単独で視察に行かせてもらえたのです。
ただし条件もありますので、気を付けてください。
基本的には学校に還元できることが大前提です。
- 校長が率先して学びを推奨するタイプである
- 普段の業務で管理職や事務などと友好な関係が築けている
- 個人が取り組みたいことよりも、学校の目指す方針に沿った先進校視察である
- 出張後に報告書等で先生方に学びを共有すること
教科部会の研究大会に参加する
各都道府県ごとの教科部会に参加することも有意義な学びです。
毎日の業務の忙しさから、なかなか参加しようと思えなくて…。
私の自治体の教科部会は任意参加で、その活動の具合は教科によって様々です。
所属する教科部会では総会で講演会を実施したり、それぞれの研究会で授業やカリキュラムの構成など互いに持ち寄った内容で定期的に勉強会をしたりしています。
代表で授業を行うこともあり、授業実践や参観を通して授業力を磨くことができます。
またブロック大会や全国大会では、全国の先生方の実践発表や自治体単独では招くことができない講師を呼んで講演が開かれます。
例えば数学であれば、日本数学教育学会が主催する全国算数・数学研究大会が全国大会にあたります。
こちらは、実際の授業を見ることは難しいですが、全国の先生方の実践研究を知ることができます。
普段出会うことがない人と直接交流をすることもメリットです。
私自身も初任の頃は部活も忙しく、部会にはほとんど顔お出したことはありませんでした。
縁あって事務局長を行うことになり、それを機に全国大会にも参加をするようになりました。
全国レベルの実践を知ることは、新しい発見やモチベーションアップにつながり、大変貴重な経験でした。
ただもちろん金銭的な負担はあります。
ブロック・全国大会など大きなものは、講師への謝礼・会場費など運営のために参加費もかかります。
でも身銭を切っての学びは、やはり身になります。
所属先に近い都道府県にブロック大会や全国大会が回ってきた時は、金銭的にもチャンスですのでぜひ参加してみてください。
そして大会参加だけでなく、所属する部会の学びの場にも参加し、日々の実践を深めるのもよいでしょう。
研究発表をする側にまわれば、さらに学びが促進されます。
セミナーに参加する
大学や民間企業、NPOなどが講師を招いて教育関係のセミナーを開くことがあります。
こちらも気軽に試せる参加型の学びです。
教育関係のセミナーでは著名な方の講演やパネルディスカッションなどでお話を聞くことができます。
自身の興味のある分野に的を絞って、第一線の方のお話を聞くことができる点が良いですね。
講師も参加者も学びへのエネルギーが高く、翌日からの仕事へモチベーションが上がります。
無料のものがほとんどなので、近場で開催される場合はぜひ参加したいですね。
最近ではオンライ開催のものも多くなりました。
個人的にはオンラインだと受け身になってしまう点が難点です。
書籍ほど自分でじっくり考えながら取り組めないので、軽く話を聞いてみようくらいになってしまうこともあります。
できれば対面で熱を感じたり、セミナー後の個別質疑や名刺交換などで交流をもったりすると学びが深まるでしょう。
セミナーの見つけ方の例を挙げておきます。
告知サイトでは個人や団体が自由にセミナーを告知しています。
一般のビジネスマン向けのものと異なり、教員向けのため心配は少ないと思いますが、主催者をしっかり確認をした上での参加をお勧めします。
オンラインやアーカイブ配信のものは時間にとらわれず気軽に参加で来そうです。
関心の強いものは対面が良いかもしれませね。
勉強会に参加する
地域で熱心な先生方が集まって勉強会を開いていたり、大学が研究会を実施したりしていることもあります。
私自身は近場の学校に務める先生方との情報交換会に参加しています。
生の声でざっくばらんに情報を交換できる、新しい学びを得られるのは利点です。
不定期の開催で参加人数が揃いそうな時に行っているだけですので、気軽に新しい情報を得ています。
団体名がついているような会で、本格的に取り組む方法もあるでしょう。
また、地元の教育学部は定期的に教員向けに講座を開いたり研究発表の場を設けたりしています。
新しいコミュニティに属したり、主体的に取り組みたい人には最適です。
一度ご自身の周りで勉強会が開かれていないか確認してみるとよいと思います。
ただ勤務時間外であるため、プライベートとのバランスは忘れずに。
大学院や長期研修などの研修を行う
最後は大学院進学や長期研修への参加など、研修制度を利用した学びです。
私自身も辞令を受けて教職大学院へ進学し、学びを深めた経験があります。
大学院や長期研修では、普段の授業研究とは異なり理論ベースで大量の文献をあたる本格的な研究を行うことができます。
自分が行なっていたことが、理論や先行研究によってどのような裏付けがされていたのか。
ただ実践するだけでなく、成果までを検証する。
インプット・アウトプット・アウトカムを徹底的に行う経験ができました。
一度現場を知った上での学びなので、学生の頃より遥かに深いインプットになりました。
普段は業務で忙しく、なかなかじっくりと授業や教育活動について考えることはできません。
研究論文は大変ですが、長期的な研修は大変学びなる経験です。
特に高校は小中学校と異なり、教育学部出身の先生は少ないですし校内研修も不十分なことが指摘されています。
改めて教育学を学ぶことは、これからの教育の在り方について学ぶ有意義な時間になるでしょう。
研修は指名されないといけないのでしょうか?
大学院や長期研修は、教育委員会からの推薦であったり立候補であったりと自治体によって形式は様々です。
教職大学院時代の同期は、半々くらいでした。
管理職に相談をして自ら手を挙げて進学をした先生は、日々の授業改善に熱心でその成果もあり管理職から教育委員会に推薦してもらったようです。
興味のある方は、まずは自治体の研修センターのHP等で調べてみるとよいでしょう。
大学院はもちろん学費がかかりますが、これから教職のキャリアを築く上で有意義な学びだと思います。
手を挙げることができる環境にあれば、ぜひトライしてみるのもよいかもしれません。
最後に:無理をしすぎないことも大切
ここまで授業改善に向けた9つの自己研鑽法を紹介してきました。
全て私の実体験をもとに紹介をましたが、もちろん同時並行で全てを行っているわけではありません。
最近では働き方改革や業務改善が取り上げられるようになっています。
日々の業務で忙しい中、さらに学びに時間をかけることは時間的にも限界があります。
業務と家庭やプライベートとのバランスを考えながら行っていくことが大切です。
教職公務員は、法で「研修と修養」に励むことが義務付けられています。
専門職である以上、一定の学びは行わなければいけません。
目の前の生徒のために学びを伝える教師だからこそ、常に学び続ける教師でいたいものです。
ぜひバランスをとりながら学びを深めていきましょう。
また今回は、授業改善に直結する内容を紹介しましたが、「研修と修養」の修養の部分もとても大切です。
しっかり休みをとって見聞を広めるための旅行に行ったり、家族や友人と過ごす時間も魅力ある教師には必要な時間です。
何事もバランスよく取り組むことが大切ですね。
まとめ
今回の記事では、授業力を向上させるための学校外の学びとして、9つの自己投資法を紹介しました。
書籍や雑誌などは、いつでも自分のペースで学びを深めることができ、実績のある先生方の取り組みを追体験できます。
また理論を学ぶことで、目先のテクニックだけでなく教員としての深みを持たせることもできるでしょう。
また研究会への参加は、新しい実践を知るほか、所属校以外の先生方と接点を持つ貴重な機会です。
直接目で見ることでイメージも湧きやすく、モチベーションにつながります。
さらに勉強会や研修は、自分自身が主体となって学びを深めていく場となります。
日々の授業以外の場で自身のアウトプットを行い、それらを評価してもらうことで自分では見えない視点を得ることができます。
どの学びも大変有意義ですが、時間的な制約やそもそも機会を得ることができないこともあるでしょう。
書籍をベースに自身の現状を把握し、その他の学びを組み合わせながら学びを深めることがオススメです。
関心のあるところから取り組んでみてください。
そして自身の学びだけでなく、外の学びを学校に持ち帰り学校を活性化させること。
これがミドルリーダーへの一歩でもあります。
今回の記事が、みなさんの学びを深めるための参考になれば嬉しいです。